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東京地方裁判所 平成9年(ワ)19529号 判決 1998年4月14日

主文

一  被告は原告に対し、一七七万一四〇九円及びうち一四七万五八〇〇円に対する平成一〇年三月二〇日から支払済みまで年一八パーセントの割合による金員を支払え。

二  被告は原告に対し、平成一〇年三月二七日から、毎月二七日限り一か月六万二八〇〇円の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

主文と同じ。

第二  事案の概要

本件は、区分所有マンションの管理組合である原告が、その区分所有者である被告に対し、未納の管理費等の支払を求めるとともに、将来の管理費等についてもその期限ごとの支払を求めている事件である。

一  争いのない事実等

1 原告は「オーベル山王」(以下「本件マンション」という。)の管理を行うために、その全区分所有者を構成員として設立された管理組合である。

被告は本件マンション×〇×号室の区分所有者であり、かつ、原告の構成員である。

2 本件マンションは、東京都大田区《番地略》に所在する鉄筋コンクリート造陸屋根三階建の区分所有建物であり、その戸数は一〇戸である。

3 原告の管理規約においては、「区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、管理費、修繕積立費及び修繕積立一時金(以下「管理費等」という。)を原告に納入しなければならない。」(二三条)、「区分所有者は、各専有部分に有線放送の供給を受けるため、株式会社大阪有線放送と別添加入契約書を取り交わすことを承認する。各区分所有者は、有線放送の使用の有無にかかわらず有線放送使用料を管理組合に支払うことを承認する。また、有線放送使用料は管理費と合わせて会計する。」(六四条)、「管理組合は、管理費等について、組合員が各自開設する預金口座から自動振替の方法により管理組合の預金口座又は管理組合が指定する口座に受け入れることとし、当月分は前月の二七日までに一括して徴収する。」「組合員が期日までに納付すべき金額を納付しない場合において、管理組合は、その未払金額について年利一八パーセントの遅延損害金を加算して、その組合員に対して請求することができるものとする。」(五五条)との規定があり、また、同規約別紙l及び別紙配置図及び各階平面図によれば、本件マンション×〇×号室はBタイプであり、その一か月分の管理費は五万三二〇〇円、修繕積立金は八〇〇〇円、有線放送使用料は一六〇〇円で合計六万二八〇〇円との規定があり、これらの内容は被告に対して効力を有している。

二  争点

1 被告の管理費等支払の有無

(被告の主張)

被告は、原告から管理委託を受け、管理費等の集金業務をしている大成サービス株式会社(以下「大成サービス」という。)に対して、本件管理費等を次のとおり支払っている。

<1> 平成八年一二月一一日 金一二万五六〇〇円

平成八年五月分及び同年六月分の管理費等として

<2> 平成九年二月二七日 金二一万九八〇〇円

平成八年七月分、同年八月分、同年九月分及び同年一〇月分の管理費等として (原告の主張)

被告が、平成七年一〇月分(同年九月二七日支払)まで支払い、また、平成八年五月分から同年九月分の管理費、修繕積立金及び有線放送使用料の合計額並びに同年一〇月分の管理費等と滞納有線放送使用料の半額三万一四〇〇円を支払ったことは認めるが、これを含めた支払状況は別紙損害金計算書3のとおりである。

2 原告による管理費等の請求放棄の有無

(被告の主張)

被告は、大成サービスに対し、管理費等の支払を住友銀行成城支店被告名義の普通預金口座による自動振替で行っていたが、トラブルがあったため、右預金口座を解約した。その後、(原告を含めた)大成サービス側はトラブルのミスを認めて陳謝したので、被告は平成八年五月分より大成サービスに対して管理費の支払を始めた。

その際、原告は被告に対して、平成八年四月分以前の管理費等(有線放送使用料を含む)の未払全額の請求を放棄した。

(原告の主張)

原告が被告に対する平成八年四月分以前の管理費等(有線放送使用料を含む)の債権を放棄(債務免除)したとの事実は否認する。

3 被告には、その他、原告からの管理費等の支払を拒む正当事由があるか。

(被告の主張)

(一) 有線放送使用料

本件マンション×〇×号室の有線放送は既に相当以前から断線されていて使用不能となっているから、被告にその料金の支払義務はない。

(二) 駐車場利用関係

(1) 平成六年一〇月の駐車場ペンキ塗り替えの際、原告理事らは、×〇×号室に入居している被告の賃借人乙山春子に対して、ただ車を移動させろと言うだけで、代替場所を指示するとか、他の入居者の場合と同じように、車をこちらにおいてくれとか、鍵を預かるとか言わず、被告に対してだけ不親切、不適切に取り扱った。

(2) 乙山の知人は、乙山に書類を届けに来て、エンジンをかけたまま筧の駐車場所に車を停車しただけであったにもかかわらず、原告代表者の妻は「あなた、そこに車置いていいと思っているの。」と強い口調でとがめた。

(3) 乙山が、平成八年六月六日、所有の車が故障のため、代車にて帰宅した際、その車がワゴン車であったため、乙山の所定の車庫に高さ制限で入庫することができなかったことから、やむなく、原告代表者長谷川の駐車区画に駐車して、長谷川と連絡を取ろうとしたが不在であったため、すぐに大成サービスに連絡を取ったところ、了解を得ることができた。夕刻になり、被告は長谷川の帰宅した頃合いをみて再度訪問し、長谷川の妻と面談し、駐車の了解を得た。しかし、その二時間後、原告代表者が乙山本人のもとへ怒鳴り込んできた。乙山としては悪意はなく、長谷川の妻の了解を得ていたにもかかわらず、問答無用で、一方的に「馨察を呼ぶ」と原告代表者は近所に聞こえわたる大声を出した。

(4) 乙山が長谷川の妻のもとへ出向いた際、同人は乙山に対し、「管理費を払うように被告に言え」とも述べた。

これらの事実のように、原告代表者は、原告理事長という大義名分のもとで、極めて個人的かつ私的な嫌がらせをしていた。

(三) 灯油持込み問題

平成一〇年に入って、被告室の空調設備がすべて故障し、その修理依頼中、乙山は、やむなく灯油ストーブを使用しようとしたところ、原告代表者は、住戸内灯油持込みについてという書面を配布し、「・・・部屋を突きとめて撤去させていただく・・・」との記載をし、不当な指示を出した。

乙山としては、寒い時期に暖房機器なしにはすごせるものではなく、原告代表者の右のような行為は嫌がらせ以外の何物でもない。

(原告の主張)

原告理事らが被告あるいはその賃借人を差別的に扱ったとの点は否認する。

(一) 有線放送使用料

有線放送配線が共用部分で断線すれば全戸の有線放送が使用不能となる。しかし、現在までそのような事故が発生したことはない。したがって、仮に、×〇×号室の有線放送配線が断線しているとすれば、同室内である蓋然性が高い。そうだとすれば、被告が修繕すべきものである。もちろん修繕しなくともよいが、有線放送使用料は納付しなければならない。

(二) 駐車場利用関係

被告の管理費、修繕積立金及び有線放送使用料の支払義務と駐車場使用権の内容とは関係ない。被告主張の駐車場問題の顛末については否認する。なお、駐車場の使用に関しては、「オーベル山王駐車場使用細則」が存在する。

(三) 灯油持込み問題

灯油持込問題に関する被告主張は否認する。なお、本件マンション使用細則により室用への灯油持込みは禁止されている。

第三  争点に対する判断

一  争点1(被告による管理費等の支払)について

被告が、管理費等として、平成八年一二月一一日に平成八年五月分及び同年六月分の一二万五六〇〇円を、平成九年二月二七日に平成八年七月分、同年八月分、同年九月分及び同年一〇月分の管理費等(ただし一〇月分は半額の三万一四〇〇円)として二一万九八〇〇円を支払ったことは当事者間に争いがない。

しかし、その他、被告が、平成七年一一月分ないし平成八年四月分までと、同年一〇月分の半額、同年一一月分ないし平成一〇年三月分までの管理費等(有線放送使用料を含む)を支払った旨の主張立証はなく、これを認めることはできない。

二  争点2(管理費等の請求放棄の有無)について

被告主張の原告を含めた大成サービス側が平成八年四月分以前の管理費等(有線放送使用料を含む)の未払全額の請求を放棄したことを認めるに足りる的確な証拠は全くない。

もっとも、被告は、前記支払免除について直接の書面はないが、乙一(大成サービス作成の平成八年五月分ないし同年六月分本件マンション管理費等一二万五六〇〇円の領収書)が平成八年五月分以降となっており、それ以前の支払分を免除したという証拠であると主張するが、右領収書の存在をもってするだけでは、右支払免除の事実を推認できるものではない。

三  争点3(管理費等支払拒否の正当事由の有無)について

被告が管理費等の支払拒否の事由として主張しているもののうち、有線放送配線については共用部分で断線していると認められるものではなく、本件全証拠によっても被告に有線放送使用料支払拒絶の事由があるとは認められない。

また、駐車場利用関係の紛争については、たとえ被告の主張をもってしても、そのことで被告が管理費等の支払を拒み得る理由となるものではない。

なお、《証拠略》によれば、本件マンションにおいては、駐車区画は一住戸につき一区画であり、被告から本件マンション×〇×号室を借りている乙山がその使用車両を×〇×号室の使用区画に駐車して利用していたが、その上、被告使用車両が、時々、本件マンション△〇×号室の遠藤あいの駐車区画に無断で駐車されることがあり、これにたまりかねた遠藤の子が、一度、△〇×号室の駐車スペースに無断駐車していた被告使用車両に無断駐車をやめるように記載した紙片をテープで貼り付けたことがあったが、これに対し、被告は大成サービスに対して車両が傷付けられたと抗議したことがあったところ、その後、平成七年九月ころ、遠藤が被告の無断駐車で困っていることを知っていた当時の原告理事長山田達夫の妻山田幸子が、やはり△〇×号室の駐車スペースに遠藤に無断で駐車しようとした被告を見つけ、被告に注意したところ、被告と口論になったことが認められるが、そのことなどをもって、すべての非が原告側にあるとは到底いえるものではなく、その他の被告主張の駐車場についての紛争を含めて、本件全証拠によっても、すべての非が原告側にあるとは到底認められない。

さらに、灯油持込みにかかる紛争についても、たとえ被告の主張をもってしても、そのことで被告が管理費等の支払を拒み得る理由となるものではない。

なお、《証拠略》によれば、本件マンション建物使用細則(甲一)には、「自然発火、引火爆発のおそれのあるものは本物件内に持ち込まない。」(四条(2))との規定があるところ、乙山は、×〇×号室の空調設備が故障し、その修理依頼中、灯油ストーブを使用しようとしたところ、大成サービスの担当者が、共同廊下に付着していた油染みを見つけ、「本件マンションは危険物の持込みを使用細則で禁止しておりますので、実質的には石油ストーブは禁止となります。ゆえに今後油染み等を発見した場合は部屋を突き止め撤去させていただく事もございますので、十分注意し取り扱って下さいますようお願い申し上げます。」旨の原告理事長長谷川正人名義の書面を長谷川の確認を取らずに作成配布したこと、その後、大成サービスは、長谷川の確認を取らずに右書面を作成したことやその記載内容に不適切な表現があったことをわびる内容の書面を作成配布していることが認められる。そして、石油ストーブや灯油が右細則で持込みを禁止される自然発火や引火爆発のおそれのあるものに当たるとは直ちに認め難いところであり、また、前記書面はその内容に穏当を欠くきらいがあったことは否定できない。しかし、そうであるからといって、そのことをもって、被告が原告に対する管理費等の支払を拒み得るものではない。

四  将来の給付の訴えについて

原告は、既に履行期が到来した管理費等(有線使用料を含む)の支払を求めるだけでなく、履行期未到来の管理費等(有線使用料を含む)の支払も求めている。

ところで、将来の給付の訴えは、あらかじめその請求をして給付判決を得ておく必要のある場合に限り認められるところ、前記第二の一「争いのない事実等」、《証拠略》によれば、被告の管理費等の支払義務は継続的に月々確実に発生するものであること、本件マンションは戸数一〇戸の比較的小規模なマンションであり、被告一人の管理費等の滞納によっても、原告はその運営や財政に重大な支障を来すおそれが強いこと、将来分をも含めて、被告の管理費等支払拒絶の意思は相当に強く、将来分の管理費についても被告の即時の履行が期待できない状況にあることなどが認められ、以上の事実によれば、将来の履行期未到来の管理費等(有線使用料を含む)の支払請求も認められる。

第四  結論

よって、別紙損害金計算書3のとおり、口頭弁論終結日である平成一〇年三月一九日までに履行期が到来している平成一〇年三月分までの未払管理費等(有線放送使用料を含む)の合計一四七万五八〇〇円及び各月の支払日の翌日から前記口頭弁論終結日である平成一〇年三月一九日までの損害合計二九万五六〇九円との総合計一七七万一四〇九円並びに前記未払管理費等(有線放送使用料を含む)の合計一四七万五八〇〇円に対する口頭弁論終結日の翌日である平成一〇年三月二〇日から支払済みまで約定の年一八パーセントの割合による遅延損害金と平成一〇年三月二七日以降毎月二七日限り一か月六方二八〇〇円の割合による管理費等(有線使用料を含む)の支払を求める原告の請求はすべて理由がある。

(裁判官 本多知成)

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